【会社と個人の境界線をなくす】「自分がやる意味」を追求するデザイナーの働き方

【会社と個人の境界線をなくす】「自分がやる意味」を追求するデザイナーの働き方

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h.koyama

2025.09.18 更新

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デザイナー

野口 千紘CHIHIRO NOGUCHI

デザイナー歴:7年半

家族構成:妻と猫の3人暮らし

ポートフォリオサイト:https://noguchi-chihiro.com/

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今回お話を伺った野口さんは、大手企業の内定を辞退し、デザイナーのもとで下積みを経て、
現在はブランディングや事業開発を手掛ける会社で活躍しています。
彼は、会社員と個人という立場を分け隔てることなく、「自分」としてものづくりに向き合います
常に「自分がやる意味」を問い続ける彼の哲学的な仕事への考え方に迫ります。

【キャリア】 内定を辞退し、デザインが鍛えられる環境へ

最終学歴を教えてください。

最終学歴は大学卒で法政大学 社会学部のメディア社会学科を専攻していました。
メディアアートやアプリを研究するゼミに所属していて、アプリを作ったりメディアアートを制作したりしていました。
社会学部なのにどうしてデザイナーになったの?ってよく言われるんですけど、僕のいたゼミはデザイナーになる人が結構いたんですよ。ものづくりをするようなゼミだったんですよね。

デザイナーとしてのキャリアのスタートについて教えてください。

大学3年生の冬に、料理の分野における、プロダクトやWebサービスを運営する会社のUIデザイナーとして内定をもらいました。ただ、入社まで1年あったので、もっと幅広いデザインを経験したいと思って、ユニークな社風で知られる、 面白法人カヤックという会社でアルバイトをすることにしたんです。

その会社では、グラフィックや広告デザインなど、それまでやったことのない分野に触れることができて、自分のデザイン力のなさを痛感しました。同時に、「できないこと」を学ぶ面白さも感じて。
この経験から、内定を辞退して、アルバイトしていた企業に新卒で入社することを決めました。

その会社に5年半在籍したのち、ご縁があって現在の会社 スマイルズに入社しました。

【お仕事】 Webやグラフィック、プロジェクトの全工程まで幅広く

主にどのようなお仕事をされていますか

会社では、デザイナーとして働いています。仕事の割合は、ウェブデザインが4割、グラフィックデザインが3割、あとはアニメーションやイラストが3割といった感じですね。

会社にプランナーやコピーライターといった職種が決められていないので、企画からコピーライティング、現場での販売まで、プロジェクトの全工程を見届けるような仕事が多いです。
最近のHR事業の仕事だと、プロジェクトの立ち上げから、3Dイラストの制作、サイトデザイン、冊子の制作まで担当したりしました。

野口さんが担当したHR事業 「スマイルズHR」

【理由】 偶然から始まったデザイナーとしての道

デザインの仕事を続けている理由や、キャリアとしてデザイナーを選んだ背景を教えてください。

デザインそのものよりも、手を動かして何かを制作することや、形のないものを世に送り出すことが好きなんですよね。
なので、会社でデザインする以外にも、個人制作で仕事以外のものを作ったり、有志で同僚とグループ展示をしたり、何かを作ることを日々続けています。

あと、学生時代のインターンの経験もあって周りにデザイナーやクリエイターの友人が多いんです。
なので、彼らと対等でいるためにもデザインを続けているという側面もありますね。
30歳になって、自分と一緒に仕事したいと思ってもらえるかなぁとか、自分ダサいことしてないかなぁとか、お互いが作ったもので刺激し合えるように頑張っています

今でこそデザイナーとして働いていますけど、実は学生時代に、SUZURIというWebサービスのインターンにフロントエンドエンジニアとして応募したところ、「デザイナーなら空いてるけどどうですか?」って言われたのが、デザインの仕事を始めたきっかけでした。
もしその出来事がなければ、今頃エンジニアになっていたかもしれません。

【価値観】感覚は会社も個人も変わらない。自分の可能性を広げるために

会社員としてデザインの仕事をしながら、個人でもデザインを続けている理由を教えてください

会社で受ける仕事も、個人で受ける仕事も、自分という主体でものづくりをしている感覚なので、あまり違いは感じていないんです
Webサイトにしても、ただきれいなものを作るだけなら、他の会社や、他の人でもいいわけで。そうではなく、僕が関わることで何かしらのアイデアや付加価値を加えたいんです
そのため、個人で受ける仕事では「なぜ僕に頼むのか」「このサイトを作る意味は何なのか」といったことを、依頼者の方と話し合います。
そこがまとまらない場合は、他の合っている人を勧めたり、そもそも作らなくてもいいのでは?と提案することもあります。

会社と個人の仕事の性質が全く異なるジャンルであることと、自分の可能性を狭めずに色々なチャンスに立ちたいという思いから、個人の仕事も受けています。
自分だけでやるよりも、会社で引き受けた方がいい場合もあり、会社の仕事として引き受けた例もいくつかあります。

クリエイティブユニット「tsuchifumazu」 ウェブサイト デザインと実装を手がける

【働き方】 複数案件を同時進行のため土日にも作業し、時間との勝負

企業と個人のお仕事のスケジュールはどのように組まれていますか

平日は会社で8時間ほど働いて、朝や夜、あとは主に土日に個人の仕事は、するようにしています。

現在、会社の仕事が10件ほどあって、個人の仕事も長いスパンのものを含めて6件ほどあります。限られた時間で進める必要があるので、時間勝負な部分も多いですね。
会社の仕事がメインなので、その時間が圧迫されるような状況は、作らないようにしています。

あまり健康的ではない自覚もあるのですが、好きでやっていることでもありますし、将来を考えた時に、こんな働き方ができるかもわからないので、今のうちにやれることやっておきたいなという気持ちもあります。

猫の世話をしたり、料理を作ったり、やらなければいけないことが逆に生活を作ってくれているなぁとも感じます。
妻が外に連れ出してくれたり、二人の時間を作ってくれたりすることにも感謝しています。

デスクに猫ちゃんが休みに来ることもあるそう

【案件】 「打席に立ち続ける」という考え方

個人の案件の獲得方法や単価の目安を教えてください

積極的に活動しているわけではないので、SNSやポートフォリオサイトを見て連絡をくださったり、一緒に仕事をした方からの紹介で依頼をいただくことが多いですね。

個人的な仕事は、野球のバッティングに似ていると思っていて、制作物を公開して、同じ方から依頼が来れば「ヒット」、それを見た別の方から依頼があれば「二塁打」代表作になれば「ホームラン」みたいな感覚です。
依頼が来なければ「アウト」で、アウトが続けば攻守交代して、営業活動をしないといけないと考えています。

単価については、会社からの給料で生活できるので、個人の仕事ではあまり高額な報酬はいただいていなくて、数万円から数十万円の案件がほとんどですね。
それよりも、やはり自分がやる意味や、案件自体の面白さ、一緒にやる方の熱意、みたいなものを大事にしています。

【会社と個人】 チームと個人、それぞれの環境で大切にする「納得のいくものづくり」

企業ではチームやプロジェクト単位でのデザインが多いと思いますが、個人では一人で完結することもあると思います。
それぞれの環境で工夫していることや気をつけているポイントはありますか

会社での仕事は、シンプルに「考えられる方向性が増える」という感覚で、チームでアイデアを出し合ったり、役割分担をしたりしながら進めています。
現在の会社の社長が言っていた「みんなわからない」という言葉を、仕事の指針にしています。
何かを新しくつくることって、誰も正解がわからないことばかりじゃないですか。
だからこそ、「やれることは全部やる」という姿勢が大事なんだと思います。

わからないときや自信がないときは、周りを頼ってちゃんとわからないと言うとか、調べられることは全部調べるとか、自分でできないかもしれないことも、その時間の中で身につけて最善を尽くすとか。
その結果のために、会社のメンバーに頼れるところは、会社でやる醍醐味だと思っています。

商業施設を作るにしても、新しいブランドを考えるにしても、ウェブサイトを作るにしても、ロゴを作るにしても、作ったものが正解かどうかなんて、作ってる最中はわからないですよね。

正解がわからないからこそ、自分なりの納得いく答えを持って、それを提案することが大切だと思っているんです。
納得がいかなければ、粘り強く続けるべきだとも考えています。

個人では、依頼主のやりたいことを踏まえて、最終的なアウトプットを、いかに自分が納得のいくものにして提案できるかを突き詰めることを大事にしています。

時間がなかったり、なんだか結局丸く収まりそうになってしまったり、そんな時に、無理して個人でやっている意味が薄れてしまっている気がして、なぜ自分がやっているんだろうと考えてしまいます。

なので、自分が納得がいくかどうか、という部分を個人で依頼を受けるときは大事にしています。

【クオリティ】「自分がやる意味」を追求する、ひねりの効いたデザイン

制作物の一つひとつのクオリティが非常に高いと感じます。普段、どのような考え方やプロセスでアウトプットを作っていますか

先ほどの話にもつながりますが、制作物に関しては、「自分がやる意味」を考えるようにしています。
会社には何人ものデザイナーがいて、その都度チームを組んで仕事を進めるので、その中で自分だからこそ出せるアイデアや個性を加えることを意識しています。

個人で仕事をする際も真正面からデザインで勝負するんじゃなくて、少しひねりを加えることを意識しています。

依頼してくれる人も、ただ綺麗なものを作りたい!と依頼してくれる人よりも、多少おまかせでもいいから、なんか違うことができそうと、思って声をかけてくれる人が多いです。
なので、ちゃんとデザインは作りつつも、ちょっとでも個性を出せないかの塩梅を探っているようなイメージです。

ただ、ベースとしてきちんとしたデザインができないと、変わったことをしても意味がないので、
最低限のデザイン能力は常に必要だと感じていて、インプットとアウトプットを継続的に行うようにしています。

作業部屋の本棚にはデザイン関連の書籍やキャラクターのグッズが飾られている

【展望】 もっと多くの人に届く仕事を

会社員としてデザインの仕事を続けながら、個人業務も経験されていますが、今後のキャリアはどのように考えていますか

今は独立するんじゃなくて、会社でチームとしてものづくりをすることにも面白さを感じています。
一方で、個人でも会社でも「自分の名前で仕事がしたい」という気持ちはあります。
また、誰かを応援したり、協力したりすることが行動の原点なので、熱意のある人の役に立ちながらも、その立場で自分は何ができるんだろうと、自分の価値を問うようにチャレンジしていきたいです

今後は、デザインを始めた原点でもあるように、個人的なものづくりを増やしていきたい気持ちもあります。
自分が制作した仕事でも、個人制作でも、もっと多くの人に届けられるようになればいいと思っています。
そのために足りない部分で言うと、デザイン事務所でアルバイトをしていた際、ただ感覚でデザインするだけでなく、デザインのルーツや背景をしっかり学ぶことの重要性も教わったので、美大出身ではないからこそ、そうした知識を身につけなきゃならないと今は強く感じています。

【アドバイス】 「ものづくりの楽しさ」を追求すること

これからデザイナーを目指す人や、会社員+個人でデザインをやりたい人に向けてアドバイスやメッセージはありますか

まずは「デザイン」という枠にとらわれずに、自分が「こうしたら面白いのに」と思うことや、「こうだったらいいな」と考えることを、どんどん実践してみるのがいいと思います。
僕自身、ものづくりが好きで、デザインはその手段の一つでした。
デザインの勉強も大事ですが、まずは「ものを作る楽しさ」自体を追求することが、長く続ける上では重要かなって。
その結果、デザインが好きならデザイナーに、プログラミングが得意ならエンジニアになればいい。

そして、デザインの仕事をするなら、とにかく数をこなすことが大事です。
アートディレクターの下で何度も修正を繰り返した経験は、僕の大きな力になっていますし、仕事とは別に制作を続けていることも、自ずと仕事につながっていっていると感じています。
若手である僕も、今後も色々と試して、成功体験を積み重ねていきたいと思っています。

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